体験談「またお願いしたい」と言われた日のこと
そのひと言は、静かで、やさしくて、だけど心の奥に深く届く。
それは「ありがとう」とはまた違う種類の感謝や信頼。
ぼくにとって、それは何よりうれしい“ごほうび”やった。
植木屋として働いてきて、たくさんの「ありがとう」をいただいた。
でも、「またお願いしたい」は、ちょっと特別や。
そこには、仕上がりへの満足だけやなく、「この人なら、暮らしを任せても大丈夫」という、目には見えへん信頼がある。
それが聞けた日、ぼくは植木屋を続けてきてよかったと、心から思えた。
ご縁が繋がったある春の日のお宅で
その日伺ったのは、築年数の経った和風の平屋のお宅。
門の横には立派なサツキ、奥には常緑樹が何本も並び、どこか懐かしい空気が流れていた。
風の音、鳥のさえずり、そして木漏れ日の中に、庭が静かに息をしているようやった。
迎えてくださったのは、60代くらいのご夫婦。
奥さまが庭好きらしく、剪定のご依頼は違う業者に毎年出しているそうやった。
けれど、今回はご縁がありうちに依頼があった。
奥様にうちに依頼してくれた経緯の話を聞かせてもらった。
「前に来てもらった職人さんに、少し強く剪定されてしまって…
この子、元気がなくなったみたいで心配で」
“この子”というのは、玄関脇に立っていた小さなカエデの木。
たしかに枝先が不自然に短く、枝ぶりも偏っていた。
その姿に、ぼくも「止めてしまってるな…」とすぐに感じた。
でも、それ以上に奥さまのその言葉から感じたのは、“木への愛着”やった。

ただの庭木じゃない。そこにあるのは、日々の暮らしの一部。
家族のように、大切にされている存在やった。
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「仕上がりより、思いを汲むこと」が大事
こういうときこそ、植木屋の本領やと思ってる。
剪定の腕はもちろんやけど、それ以前に「どうしたいか」「どう感じているか」を汲み取れるかどうか。
だから、道具を出す前に、まずこう聞いた。
「奥さまが、“いちばん好きでイメージしているのは”、どんな感じですか?」
すると奥さまは少し考えて、
「自然な形が好きです。野山の木みたいな、のびのびした雰囲気が残るように…。
でも、あまり乱れて見えるのもイヤで」
その“あいだ”を見つけるのがプロの仕事やと思った。
剪定って、ただ短くすることでも、形を整えることでもない。
木の“これから”を描くこと。
そしてその枝ぶりが、住む人の気持ちにしっくりくるように導くことやと思ってる。
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剪定は、枝を見るんじゃなく、“流れ”を読む
作業に入るとき、まず全体を見て、木がどの方向に伸びたいのかを読む。

水の流れのように、自然に伸びようとする枝がある。
その流れを切らずに、風通しと光の入りをつくってやる。
木が“楽になるように”整えていく。
枝先ばかりを意識すると、形ばかり整って、木が苦しむことがある。
その木が暮らしのなかでどう立っていたいか。
どう見られたいか。
そこまで考えて剪定する。
今回は特に、木の声を聞くように、慎重に進めた。
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会話のひと言が、仕事の意味を変えた
作業の途中、奥さまがそっと庭に出てこられて、こんな言葉をくれた。
「…以前の方のときは、ここまで丁寧に聞いてもらえなかったんです」
そのとき、ぼくは気づいた。
「剪定」に求められているのは、ただの“手の速さ”や“美しさ”じゃない。
安心して任せられる人かどうか。
その判断は、枝よりも“言葉のやりとり”のなかで決まるんや。
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仕上がりよりもお客様の安心感
すべての作業が終わったあと、木は本当に“呼吸”を取り戻したように思えた。
風にそよぐ枝の動きが、どこか気持ちよさそうで。
奥さまは木を見上げて、嬉しそうにこう言った。
「この子、一番いい姿になった…ほんとに、よかったです…」
そのあと、帰り際に、こう続けてくれた。
「これからもお願いしても、いいですか?」
たった一言。だけど、重たくて、やさしくて。
心のなかで何度もリピートされるような、特別な響きやった。
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この言葉の裏には、いくつもの気持ちが重なっている。
“またお願いしたい”その一言に込められた言葉の深さ
- この人に任せてよかったという安心
- 自分の思いを受け止めてくれた喜び
- 木がよろこんでいるように感じた感動
- また会いたいという、信頼の気持ち
これって、ただの仕事の評価じゃなくて、
“暮らしの中に、ちゃんと入れた証”なんやと思う。
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植木屋として、大切にしたいこと
ぼくが目指しているのは、「またお願いしたい」と自然に言ってもらえる仕事。
それは、営業をがんばることでも、SNSでバズることでもない。
目の前の一人に、心を尽くすことやと思ってる。
手間も、時間も、かかるかもしれへん。
でも、その“ひと手間”が、「またお願いしたい」を生む。
その言葉に、何度でも背中を押してもらえるから。
でもSNSを通じてぼくのことを知ってほしいので、
→Instagramを開設しましたのでこちらも気軽に見ていってください。
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“はじまりを整える”仕事を、日和舎として
日和舎は「日和=何かを始めるのにちょうどいい日」という言葉を屋号に込めている。
ぼくがやる剪定や庭しごとは、暮らしにとっての“はじまり”を整えるようなもの。
朝起きたとき、ふと庭を見る。その木が気持ちよさそうに立っている。
それだけで、なんだか「いい一日になりそう」と思える。
雨が降ってもテンションが上がる。
春夏秋冬どの季節も見どころのある。
そんな庭を、これからも増やしていきたい。
またお願いしたい、そう思ってもらえるような仕事を、今日も一本ずつ丁寧に。